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PLL(Phase Locked Loop)

PLL(Phase Locked Loop)はいろいろなところで利用されています。身近なところでは、テレビのチャネル設定をリモコンで設定できるのは、このPLLのおかげです。最近の通信機はPLL技術が必須です。他にはモーターの回転数制御に、そしておそらくは電力系統の50Hzや60Hzの周波数の制御にも利用されているのではないかと思います。

さて、PLLは、正確な周波数(たいては水晶発振器)を有する基準信号を用いて、フィードバックによりチャネル(=周波数)やモーターの回転数を自動的に正確に合わせこむ技術です。水晶発振器は、低価格にも関わらずズレや変動が10ppm程度と非常に高精度です。

高精度な周波数設定の可能なFMトランスミッタやFM補間放送用等に使える周波数コンバータ用にPLLを利用した装置の開発を検討しています(図1参照)

DSC_0702

PLLのブロック図が下の図2です。

PLL1・・・図2

図2左のfrefがたとえば水晶発振器の信号になります。位相比較器、Filter、電圧制御発振器、1/N(N分周器)でフィードバック回路を構成しています。フィードバックの特性として、フィードバックが正常に機能しているときは、比較器の2つの入力は等しいと考えます。この考えを図2にあてはめると、fref = fvco/N となります。すなわち、図2の電圧制御発振器の出力周波数(fvco)は、fvco = N・freq となり、分周器の分周比Nを変化させることにより、出力周波数fvcoを一定のステップで変えることができます。frefは水晶精度なので、fvcoも水晶と同様の高精度になります。

ここでは、私なりにPLLの応答特性について検討し、ループフィルタの定数を決めようと思います。

まずは、位相比較器と電圧制御発振器については、図2の伝達関数を実現する機能ブロックであるとし、詳細な説明は割愛します。Filterについては、下の図3を想定します。ただし、R1とC1は、比較周波数の除去が目的であり、これから検討するループの特性には影響しない定数にするため、以下では無視(R1=0Ω, C1=0pF)とします。(図4参照)

PLL2・・・図3

PLL3・・・図4

図4のFilterの出力側のブロック(ここでは、電圧制御発振器)の入力インピーダンスが十分に大きいとすると、Filterの伝達関数H(ω)は、(1)式で与えられます。

pll_eq1・・・(1)

位相比較器は通常CP(Charge Pump)出力になっており、Charge Pump回路の出力電流を範囲を±Ipd とすると、伝達関数はたいてい(2)式で与えられます。

pll5  ・・・(2)

また、電圧制御発振器の特性は、(3)式で与えられますが、図1のブロック図をよく見てみると位相比較器入力は位相になっているので、電圧制御発振器の出力の周波数を位相で表す必要がありますが、位相は周波数を積分することにより得られますが2πも忘れずに入れて、最終的に(4)式が得られます。

pll6 ・・・(3)pll7・・・(4)

次に図1のブロック図に基づいて、関係式を導くと、(1)、(2)、(4)と分周器の特性(1/N)より、(5)式が得られます。

pll8・・・(5)

これを、ΦrefとΦvcoの関係に整理すると、(6)式が得られます。

PLL_eq6・・・(6)

また、伝達関数の応答特性は、(7)式のζ(ダンピングファクタ)とωo(固有角周波数)でおおよそ決まります。したがって、(6)式と(7)式よりダンピングファクタと固有角周波数を決めてやれば、RとCの値を得ることができます。

PLL_eq7・・・(7)

(6)式および(7)式より

pll_ep8・・・(8)

pll_eq9・・・(9)

また、図4のR1、C1については、R1 = 10kΩ、C1 = 100pFとしています。

ダンピングファクタは、通常0.7がお薦めのようですが、シビアな設計が必要無い場合は、0.5~2で特に問題は無いと思います。ここでは、簡単に1としてみましょう。

次に固有角周波数ですが、今考えている装置はFMトランスミッタ用発振器の周波数安定用のPLLなので、応答速度はあまり気にしていませんが、上記電圧制御発振器にステレオ音声を印加してFM変調を掛けるので、この音声にPLLが応答してもらっては困るので、たとえば固有角周波数として、60(rad/s)≒10(Hz)としましょう。

あとのパラメータとしては、今回使用を想定しているANAGLOG DEVICES社のADF4360-9のデータシートから、Icp=0.3mA(ロック時)、Kvco=2(MHz/V)、また今回は比較周波数を100kHzとしているので、分周比Nは90MHz/100kHz = 900 ≒1000 とします。

上記の値を(8)および(9)式に代入して、R = 100Ω、C = 330uF   が得られます。あいにく330uFが手持ちにないので、代わりに100uFで代用しましたが、無事に78MHzロックできました。(若干中心周波数がずれていますが、水晶発振器の周波数を調整していないためです。)

下は、50HzでFM変調を掛けた時の出力信号のスペクトラムです。きれいなFM変調が掛かっていますね。試しに30cm程度のリード線をつなげば、近くにFMチューナでしっかりと受信できました。

PLL_FM_spectrum

これまで簡易な検討により動作するところまで持って行けたので、今後はシミュレーションや実験によるパラメータのチューニングを施し、製品化したいと考えています。

まだ、商品企画がはっきりと決まっておりませんので、ご意見等ありましたら遠慮なくご連絡くださいませ。

さて、この投稿を書いてて思い出したことがあります。大昔、BS放送がまだアナログ放送の時代のことです。当時、NHKではBSを使ってハイビジョン実験放送をしていましたが、このハイビジョン放送もアナログ放送(FM変調)で、当時大手電機メーカーに勤めていた私はこのハイビジョン用FM変調器の開発を手掛けたことがあります。渋谷にある某放送センターに装置を納めたときに、以前の装置より画質が改善したねと担当者に喜んでいただいたことは、私の古き良き思い出です。実はそのFM変調器の設計にPLLを使用しましたが、検討が不十分だったため比較周波数を小さくしてしまい、比較周波数成分の漏れ(=レファレンス・リーク)がガンガン出てきて、冷や汗が出たことがあります(^^;;。その時に、当時の上司に、広帯域FM変調なので、この漏れの影響は小さいのじゃないかな?計算してみたら?と言われて、この上司に教わりながら計算してみたら、問題ないということがわかりほっとした記憶があります。この漏れは気持ちの良いものではないので、2号機以降は、比較周波数を大きくしました。ほとんどが一台こっきりの実験装置の開発ばかり手がけた私の実績の中では、某放送センター、大阪の某放送局、同業他社等にトータル10台以上も売れた印象深い製品です。

余談の続きですが、ソウル五輪のBSハイビジョン放送用システムの一部に上のFM変調器が使われましたが、準備の段階で調子が悪いという連絡が入ってきました。状況を聞く限り基本的には正常(AFC回路部の動作不良の可能性もあったのですが、少し前は正常だったとの話もありました)で、ただAFC(自動周波数コントロール)スイッチがOFFになっているとしか思えず、せっかくの機会なので行きたかったのですが、仕事の都合上調整をやってもらった製造担当者が行くことになりました。彼は現地で症状をちらっと確認し、その後我慢できずにすぐにトイレに行ったそうですが、戻ってきた時には問題はすでに解決していたそうです。予想通りスイッチの設定でした^^